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番外編③ シアワセノカタチ-06

last update Last Updated: 2025-03-18 05:01:41

鏡に映る自分の姿がどんどんと綺麗になっていく様を、紗良はどこか他人事のようにぼんやりと見つめていた。

一体どうしてこうなったのか。

海斗の入学記念写真を撮ろうという話だったはずだ。

それなのにウエディングドレスを選べという。

掛けられていた純白のウエディングドレスは、そのどれもが繊細な刺繍とレースでデザインされている。

素敵なものばかりで選べそうにない。

「どうしたら……」

ウエディングドレスを着ることなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。

だから果たしてこんなに素敵なドレスが自分に似合うのか、見当もつかない。

ドレスを前にして固まってしまった紗良に「ちなみに――」とスタッフが声をかける。

「旦那様の一押しはこちらでしたよ」

胸元がV字になって、透け感レース素材と合わせて上品な雰囲気であるドレスが差し出される。

肩から腕にかけては|五分《ごぶ》くらいのレースの袖が付いており、デコルテラインがとても映えそうだ。レース部分にはバラの花がちりばめられているデザインで、それがまるで星空のようにキラキラと輝く。純白で波打つようなフリルは上品さと可憐さが相まってとても魅力的だ。

「でも自分の好みを押しつけてはいけないとおっしゃって、最終的には奥様に選んでほしいとこのようにご用意させていただいております」

そんな風に言われると、もうそれしかないんじゃないかと思う。杏介の気持ちがあたたかく伝わってくるようで、紗良は自然と「これにします」と答えていた。
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    Last Updated : 2025-03-23
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    Last Updated : 2024-12-10
  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   店員と常連客-01

    明日への活力など寝て起きればもうリセットされているわけで――。紗良は五時半の目覚ましでむくりと起き上がった。身支度を整えながら、夜のうちにタイマーをかけておいた洗濯物をベランダに干す。それが終われば朝食の準備にとりかかるが、朝からあれこれ作る余裕はないため今日はピザトーストだ。オーブントースターで焼いていると紗良の母が起きてきて、あとを母に任せて紗良は寝室へ。「海斗、起きなさーい。朝だよー」寝相悪く布団から半分飛び出しながらもまだぐーすか寝ている海斗を揺り起こす。「……うーん」どこでそんな技を覚えてきたのだろうか、ごろんと寝返りを打ちながら器用に布団に丸まる海斗。「保育園遅刻するよー」容赦なくぺりっと布団を剥がし、寝ぼけ眼の海斗を着替えさせる。抱っこでダイニングまで運び、焼き上がったピザトーストを食べさせつつ紗良も急いで胃に流し込んだ。「今日は午後から雨みたいよ。傘持っていきなさいね」朝の情報番組のお天気コーナーを見ていた母がのんびりとお茶を飲みながらそんな事を言い、紗良はそれを頭の片隅に置いておきながら海斗の身支度を整える。「ほら、海斗行くよ」「おばーちゃん、いってきまーす」「はいはい、いってらっしゃい。ほら、紗良、傘忘れてる」「あっごめん、ありがとう」自分のカバンに傘に、海斗の保育園の着替え一式。軽自動車の助手席に雑に起き、海斗を後部座席へ乗せた。保育園までは車で五分ほどだ。近いけれど、海斗を車へ乗せたり降ろしたりする動作は意外と時間がかかる。四歳児だがまだまだ一筋縄ではいかないことが多い。保育園の門が開くと同時に海斗を預け、紗良は急いで職場へ向かう。朝の時間帯は交通量が多く、渋滞になりそうな道を時間と戦いながら安全運転で進み、職場の駐車場から執務ビルまではダッシュだ。そうして始業時間ギリギリに席に座り、汗だくのまま仕事が始まる。これが紗良の毎朝の風景だ。

    Last Updated : 2024-12-10
  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   店員と常連客-02

    「おはよう、紗良ちゃん」「依美ちゃん、おはよう~」ぐったりと席に座った紗良に声をかけてきた同僚、岡本依美は紗良と同じ派遣社員で一年先輩になる。「毎朝お疲れ様だねぇ」「今日は道が混んでたの。遅刻するかと思ったよ」「それで走ってきたの? 汗だくじゃん。あとで化粧直ししてきなね」「うっ……そうする」直すほどの化粧はしていないけれど、と思いつつもよほどひどい顔をしているのだろうか、思わずため息が漏れてしまう。「ところでさ、来週飲み会あるんだけど、どう?」「飲み会かぁ」「たまには参加しなよ。子供、お母さん見てくれるんでしょ?」「まあねぇ。うーん、でもやめとくよ。お迎えもあるし、その後で行くのはキツイ」「お迎えもお母さんにお願いできないの?」「それがお母さん運転免許持ってないのよ」「そうなの? そりゃ大変だ」「でしょう?」始業開始からそんな不真面目な会話を繰り広げられるほど社内環境はいい。紗良はここで派遣社員として八時半から十七時半まで事務仕事をしている。働き始めて早二年。時短勤務はできないものの、子育てしながら働くことを理解してもらえているありがたい職場だ。とはいえ、やはり子供を育てる上でいろいろと制約はあるわけで――。

    Last Updated : 2024-12-10

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